海に還る
海がすきです。
と言うと、なんだか夏の海、ビーチ! みたいな感じがしますがそんなものではなく。
わたしの地元は干潟のある内海に面してます。干潟なので、ビーチ、なんてものはなく、堤防によじ登ったり、座れるところでテトラポットに寄せる波を眺めてたり、そんなことをする人が自分だけじゃないんだなあ……と、潮が引けばあらわになる干潟、その上を跳ねるムツゴロウや、遠く島原の稜線に沈む夕陽を見ながら思う、それがわたしの「海」です。
なにがすきなんでしょう。
思い返せば、たぶんまずは、音。
ただひたすら月の引力に寄せては返す波の音と、ときたま遠く、海苔の船のエンジンが響く、そういう音がすきなんだと思うのです。
次は、たぶん、色。
干潟の色、澄んでない海の色ーーこれを思うといつも、小6のころの遠足で堤防ぎわを歩いていたときに、クラスメイトの黄色い帽子が風にさらわれて海に落ちたのを憶い出しますーー、そして沈む夕焼けの色。そういう、移ろいゆく時間の色がすきなんだと思うのです。
そして、風。
当たり続けると少しずつ冷えて、潮の匂いが湿気といっしょくたにまとわりつくようで、それでいてどこかせつない匂いのする、その風がすきなんだと思うのです。
海がすきです。
正確には、地元の海を眺めているのが、すきです。
川から流すお盆のお団子が流れるさまを今年は見れなかったことをふと思い出すと、替わりに海が呼んでる気がしました。